story

敵か味方か看護師さん 移動教室篇

一方で当のAちゃんはというと、噂のトリッキーなことはせず、呆気にとられたように私をみていた。この子、頭いいんじゃないかな?そう思った。彼女と目が合うと、彼女は抱いてる人形に言った。
「怖かったね〜、そばいようね〜。」
そう言いながら人形をブンブン振っている。

 

—–前回—–

 

 

先生たちが我を戻し、Aちゃんに駆け寄った。びっくりしたね〜、大丈夫〜?等々さぞかし幼稚園児なんかに話しかける対応。この子、小6だろうに。もしかして、この方がこの子、楽だったのか?

「はじめまして。yuenって言います。怪我してないか保健室一緒に行こうか?」
「おねえさん、はじめまして。お人形も一緒でいい?」
「いいよ〜。」
「いく。」

先生たちは驚いていた。自分の予測の範囲だと、返事はしても会話が成り立たないようにしていたのではないだろうか?
この子、見えないところで相当いじめられてきた。大人は助けてくれないとわかったから、通じない方が助けてくれると思ったんじゃないだろうか?

「先生方、保健室行くので、この後の浜辺に行くレクリエーション、我々不参加にしますけどよろしいでしょうか?」
「へ?…はい、大丈夫です。お願いします。」

ぼやっとしていたのか、急に声かけられて意外だったのか声が裏返ってなんとか返事だけした様子だった。こちらとしては、みんなの前で不参加という大義名分さえくれればなんでもいいんだけど。無事許可もらったのでAちゃんに声をかけた。

「ごめんね、レクリエーション楽しみにしてたかな?」
「うんう、お人形さん心配。保健室、いく。」

そういうとギュッと人形を抱きしめて彼女は立ち上がった。

「保健室、一緒に探しながら行こうか?おねえさんもさっきここ来たばかりだから場所よくわかってないんだ。」
「迷路迷路〜。」
「そうだね、それもいいね。」
「行こう行こう〜!」
「じゃ、後よろしくお願いします。みんなも気をつけて遊んできてね〜。」

そう私が言うとAちゃんは、私の手を繋ぎ出した。それをみた先生たち、生徒たちが驚き、静まりかえっていた。ルンルンいってる2人と時が止まった様なオーディエンス。私たちが廊下の角を曲がるまで、その光景は継続していた。
あとで先生たちが話しかけて知ったが、手を繋いできたことは一度もなかったそうだ。まあ、そうだろう。自分に気づかず、体裁上大人でしかない人間に信頼はおけない。私はもう大人だけれど、自分の子どもの頃にこういう大人と手を繋いだだろうかと思うと、拒否したに違いない。
Aちゃんと私は宿舎の外廊下を渡り、別棟の体育館を周る予定だ。坂道に作ったおかげで本館の1Fから向かったにも関わらず、体育館は3階、保健室は階段を降りて1Fと言われていた。なんとも同線の悪い位置にある保健室だ。まあ、まず迷うな。まったく想像できない道案内の内容。方向音痴の私はそう確信していた。
外廊下を渡ったあたりで、Aちゃんが急に立ち止まり、手を引っ張って話しかけてきた。

「おねえさんさ、私普通にしゃべれるの気づいたよね?」

いきなり核心ついてきた!度胸座ってるなぁ。

「ん?そうなの?」
「隠さなくていいよ。おねえさん、Bちゃんたち黙らせてくれたでしょ、ありがとう。」
「ははは、そんな大層なことはしてないよ。でも普通にありがとうって言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。」
「おねえさん、何者?私が普通にしゃべれるの、みんなに言う?」

ああ、心配の方か。

「どっちでもいいよ。みんなの時はいつものスタンスでもいいし、私といる時は普通に喋ってもいい。全部どっちかに振り切ってもいい。私ね、めんどうなの嫌なのよ。だから、それぞれが居やすければいいじゃん。それだけ。どうしたい?」
「保健室、敵かな?」
「ん〜、行ってから判断したら?今まで敵だった?」
「うん、みんな優しそうな顔して、嘘つき。私は味方だからねって。ちょっと難しい質問すると子どもだから考えなくていいって取り合わない。」
「まあね、いろいろあるだろうさ。私は学校から雇われてるけどさ、あなたがいいようにしたらいいよ。私も嫌なことは嫌って言うよ、もちろん。そうじゃないものはこうしなきゃっていうのは、犯罪しない限り、人に反かない限り気にしない。どお?」
「わかった。敵でも味方でもない。悪いことしなきゃ見守ってくれるってことでしょ。」

そこらへんの大人よりよっぽど頭がいい。それは、嫉妬云々も経験しただろうし、裏切られもしてきただろう。

「そう。だから、保健室入って、私が少し交渉するからさ、最初黙ってるってのはどお?話してみたければ話せばいいし、そうじゃなきゃ黙ってたらいい。」
「わかった。」

黙々と保健室に向かう。しかし、方向音痴を発揮する私はそもそも階段がみつからず、Aちゃんにこっちだと案内される羽目に。どっちが大人か分かりもしない状況に笑いながらあっけらかんと私は言った。

「やあ〜助かるわ〜。おねえさん、道迷うの得意なのよ〜、そっちがおねえさんよね。」
「大人なんだかなんなんだか調子狂うわ、いいけど。」
「いやぁ、ありがとう〜。」

そうこう言ってるうちに保健室を見つけ、Aちゃんがドアのノックまでしてくれた。躾もきちんとされてるな、この子。

「失礼します。同行看護師のyuenです。やすみたい生徒連れてきました。」

テーブルで本を読んでいた、白衣を羽織った施設看護師が立ち上がり、駆け寄ると同時に盛大にコケた。

もお、大丈夫な気がする、この人。

「いたたた…あ、すみません、私慌てるとコケるんですよね。」

しかも通常仕様か。この人にも普通の人は寄ってこないだろうから大丈夫だと思う。一応駆け寄って声をかけてみた。

「大丈夫ですか?びっくりさせてごめんなさい。」
「いいんです、いいんです。」

やりとりをみたAちゃんは笑っていた。

「なんなの、今日は。ははは、久しぶりに笑った。」

こっちも大丈夫な気がする。

「あ、先生、今保健室お一人であってます。寝てる子いないです?」
「先生なんて、山村でいいです。はい、私1人ですよ。例の彼女〜?なんだ、普通の子〜。」

ドジだけど、看護師の仕事はできそうだ。きっと。

 

つづく。