story

いじめられてるのを笑いに変えようなんて…

つまりは、何もしなくても可能な状況だとは分かっているはずだ。

 

その上で内緒ごとを足してきたということは、自分もあなたたちのサイドにいる人間だ、使ってくれと油断できるようなスタンスを見せている。実に判断が早い。多少遊び心出してはくるだろうけど、余計なことはしないだろう。あの校長、案外人脈あるなと思った。
作戦は練らずとも、行動で出来上がっていくのが現場というものだと思う。

 

—–前回—–

 

 

「久しぶりに家以外で笑った。」

なんだ、家では笑えてるのか、この子はと安心した。学校で話せず、家でも話せない子は悲しくもたくさんいる。しかし、この子はそうではない様子。すかさず聞いた。

「家で笑うことってどんなとき?」
「テレビで笑うし、犬がなんかしてても笑うでしょ?おかしいことって楽しいんだ。」

なんだ、普通の子だ。

「なんで学校で変な態度取ってるか知りたい?」
「いいよ、どっちでも。話したければ聞くし、話したくなければそれでもいい。」

しばしの沈黙があって、彼女は口を開いた。

「前は、普通に学校でも話してたの。」
「うん。」
「ある日、順番に無視しようって女子が遊びだしたんだ。」
「うん。」
「嫌だった。なんか誰かが女王様みたいで、やられないようにみんな変に笑ってて。仲良くしたい笑い方もあれば、頑張って笑ってる子もいて、全然面白くないのに、なんで笑ってるんだろうと思った。」
「うん。」
「数ヶ月くらい経って、親友だと思ってる子が無視される番になったの。」
「うん。」

ここまで、淡々と私と山村さんは頷いた。口を挟むのは簡単。話し始めたなら、気が済むまで話してもらえば、あとで質問を足せばいいからだ。しかし、突如、Aちゃんから質問は切り出された。

「嫌だった、見てるのも。だから、私を無視したらいいよって言ったの。そうしたらどうなったと思う?」

相手が話を聞いているのかの確認も含め、相手がどう思うのかという平常思考の確認もあるのだろう。とてもコミュニケーション能力もあると思われる。答えは細かいのを要求していないのがわかる、話を続けてもらうのが優先なので、端的に一般論を返す。

「無視されたの?」
「そう、親友からも。みんなからも。」
「そう。」

事実を話したことがわかるので、ここに私の感情はいらない。肯定も否定もしない。どちらについても逆鱗である可能性は高い。

「バカバカしいな、友だちやら親友って言っててさ。自分がやられたら嫌だってわかったはずなのに、やる方に飲み込まれた親友だった子も。全部くだらなくなっちゃった。」
「そうだね。呆れたんだね。」

勇気を持って、親友を守ったはずが、親友自身の保身を謀られ裏切られた時の無力感たらないだろう。こんなに幼い時に、人間っていうものの浅はかさや勇気のなさに無力感を感じるとは、抱えきれないストレスだったことは容易に想像できる。

「そう思ったら、本当に笑えるってなんだろうなって遊びだした。みんなが無視するなら見たくなればいいし、私が変なことやっても笑わないのかな?とか、どこまで我慢できるのかな?とか。それで、お笑いの人みたり、犬みたり、いろんなこと遊んでた。なんかね、堪えるんだよ。」

とてもポジティブな子だと思った。普通はこんな状況であれば、通学は嫌になるし、登校拒否したって構わないだろう。彼女に落ち度は全くない。よくいじめられる子は、本人が悪いという通説があるが、そうではないケースなんて腐るほどある。彼女は堪えるどころか、状況に対して遊び出したのだ。大人でもできることじゃない。決して本人が強いわけではない、発想力が豊かなのだ。

「ユニークなことするね〜。」
「でもさ、堪えてる子と気持ち悪がって、無視じゃないこと、さっきみたいに突き落とそうとする奴出てくるじゃん?」
「やっぱり突き落とされそうになったのね。」

困ったことに、発想が貧困な者は豊かなものに対して、違和感ならまだましで、排除しなきゃ気が済まない人がいる。全ての人間と仲良くなるのは難しい。

 

つづく。