story

はがれやすい消毒とテープが大事 移動教室篇

そして、固定や消毒をして頑張って歩いた二人は大人しくバスで寝ていました。

疲れたよね、よく頑張ったわと微笑ましく私もバスで寝ました。

その後、保健室に着くなり、即座に元気にわーわーとケンカをしている二人をみて、ちびっ子の体力恐ろしいと思いました。

 

—–前回—–

 

宿舎はがらんとしていて、ベッドが2台。白枠とガラスの薬品庫には、申し訳程度に消毒薬がある

…と言いたいけど、おや?どうにも見慣れた金属端。

いやいや、整形外科でもないんだから、こんなもの使う用途も少ないだろうになぜ置いてあるんだ?と思いつつも、私が使うことはないから放っておこう。どっかの医者が来た時に持ち込んで持って帰り忘れたのかな?そうね。そう流そうとしていたら、

「あたしが先に入るの!」
「いや、俺が先に先生に会うんだよ」

バスで爆睡し、すっかり復活しては早速ドアの入り口で揉めてるな。登山で男子は膝を擦りむき、女子は足首を捻挫。登山を無事終えられるように、それぞれにぞれぞれの処置をしたので、宿舎にもどったら保健室にくるように伝えたのをきちんと覚えていてくれた様子。ドアに向かい、シンプルに一言声をかけた。

「2人同時に入れば?」
「え?!」
「あ…はい。」

画して、元気な言い合いは終わり、大人しく入室。私はイスに座るなり二人に声をかけた。

「さっきは女子からだったから、今度は消毒の君からね。」
「えー!俺?!はーい。」

彼は怪我をしてからもずいぶんと走り回るもんだから、だいぶ絆創膏は滲んでいた。最初に水で傷口を洗い流しておいたのもあり、ずいぶんと傷はきれいなので膿むこともなさそう。

「通気性よくするから、ガーゼとテープにするね。外れやすくなるけど、治りやすくはなるの。剥がれないように気をつけて動くように。」
「え?絆創膏って、万能じゃないの?」

実はよく質問されることで、絆創膏は長く使用するためではなく、一時凌ぎ。
巷では機能性絆創膏なんかも出てきて、医療資材と似ているのもあるけれど、目的によって実は使い分けをするもの。最近はこれさえ使えば治るような雰囲気の肉厚のテープが、社会では流行っていました。一枚数百円もするようなハイドロコロイド・ドレッシング材が一般家庭でも買えるようになったのは画期的だと思う。
でも、勘違いしないでほしい。なんでも!というのは間違い。むしろ、医療現場から考えると迷惑です。
表の皮どころではなくえぐれて、肉を盛り上げたいような深い傷を想定してほしい。死んでしまった皮膚組織を取り除くのを手伝うためにテープ材が溶けたり、肉を作るために血小板やマクロファージがより活性できるよう湿性の環境を保つことを手伝いたい素材。

だから、浅い傷などに貼ったらどうでしょう?

そもそもすぐ蓋ができて、肉を盛り上げる必要もない。しかもテープ材が解けてどろどろになって、湿性環境だけが作られるから乾かない。つまり、いつまでもグジュグジュしてくすぶって、いつまでも塞がらない怪我になってしまう。
皮膚の治療はもっとたくさんの方法があるけど、ガーゼやテープひとつでも、状態やタイミングに合わせたものが必要。びっくりするほど種類があるので選ばないといけない。だから、専門の科があるんですね。

さて、話戻ります。

一般的な絆創膏は一時的な作業の為に濡れないように防水しておく目的だったり、傷に触れないよう保護しておく程度の役割。もちろん、肉を盛り上げたりする作用はもちろんないし、乾かす作用も期待できない。ずっとつけていて傷にとっていいわけない。宿舎に帰ったら、走り回る必要もない。子どもはそもそも回復力高いので、回復力を手伝う保護程度の処置にしてあげるのがベスト。

男子の膝の絆創膏を剥がし、ゴミがついてないか確認し、水道水で洗う。水道水は塩素が入っているので、実は軽い傷なら消毒にもなる。乾燥しやすく、直接傷口に触れないような保護するガーゼに、剥がす時が痛くないよううっすらワセリンでも塗る。テープは走り回らないように、皮膚がかぶれないように、少し外れやすいものにしておく。それで充分。

利便性を求めたら、安静は保てない。外れやすいことで、そんなに動いちゃいけないなと自分で気づいてくれれば、彼に対しての処置は動きのセーブの注意もしなくていいし、充分目的達成。そんなことを教えながら消毒を終えます。少し大きめの声で

「教えてくれと、ドアの外で聞き耳立ててる男子たちに説明できるかしら〜?」

というと、外で見え隠れしていた似非保健委員の群れ男子たちがドアの外で、

「なんだよ〜、俺らのこと気づいてたの〜?」
「入っていい?」
「みたいみたい!」
「消毒されたい人は入ってもいいよ〜。みんなが入ったら、休みたい人は休めなくなっちゃうでしょ。気遣いできるかしら〜?静かにできる?」

わーわー言いながら脚を踏み入れようとしてた群れ男子たちが、ぴたっと止まって慌ててドアの外に戻る。声のボリュームを落として、

「そっか、俺らうるさいもんな。」
「寝てる人ごめん!」

素直に謝るあたり、いい子たちだなと思いました。

「今、この子に教えたから、よ〜く教わるように。まだ質問ある人は、あとでこっそり静かに聞きに来るようにね。」

「わかったー。」

声を揃えてドアの外でこっそり答えていた。ずいぶんと可愛い。

「俺ら、なんかケガして得したな。」
「うん、あいつら入りたくてしょうがないだろうね。」

ケガ人ふたりがニヤニヤして喜んでいるのはどうかと思うけど、落ち込んでしょうがないよりは遥かにいいか。

つづく。