story

医療現場から離れる職場を考える 移動教室篇

「なんなの、今日は。ははは、久しぶりに笑った。」

こっちも大丈夫な気がする。

「あ、先生、今保健室お一人であってます。寝てる子いないです?」
「先生なんて、山村でいいです。はい、私1人ですよ。例の彼女〜?なんだ、普通の子〜。」

ドジだけど、看護師の仕事はできそうだ。

 

—–前回—–

 

 

Aちゃんは保健室待機の看護師の言葉わ聞いて、益々笑い出した。

「看護師ってみんなこうなの?」
「みんなってわけじゃないけど、話せるタイプは大抵一匹狼だと思うよ。ねぇ、山村さん。」
「ええ、じゃないと仕事回りませんもんね。話合わせるくらいはしますけど。ここの先生方、幼そうですもんね。」

毒吐き、心の中で留められないタイプ。散々人を敵に回してきたんだろうなと思ったけど、私も全然人のことを言えないんで話しやすいタイプのようでよかった。

「ひとまず、トラブったんで、宥めて我々遊びにきたんです。先生方の許可はいただいたんで、匿っていただいてもいいですか?なんだったら、移動教室最中も。同行中は私で、宿舎は山村さんで。」
「お話早いですわ。それで参りましょう。Aちゃんはイヤじゃない?大丈夫?」
「おねえさんたち、私のことなんとも思わないの?イヤじゃないの?気持ち悪くない、人形振り回してたいじめないの?」
「全然。好きにしたらいいよ。」

看護師ふたりでハモった。
ぶっちゃけた話、一人で完結してるならなんの手間もない。暴れたりされると怪我する恐れがあるので、介入必要になるので我々としては困る。しかし、当の本人、話もできるし、何かしら事情があるんだろう。

「まあ、立ち話もなんですし、お茶淹れますからおふたりおかけくださいませ。私も暇してたんで、お話相手になってくださる?」
「いいよね?Aちゃん。」
「いいよ。」

自動湯沸かし器の湯を沸かす音が早くなる。

「yuenさんコーヒー飲める方〜?Aちゃんはお茶〜?」
「私コーヒーいただきます。」
「私、お茶がいい。」
「任せて〜。保健室に両方置いてるのよ〜。」

時折り、ガチャーン、コトンとなにか壊したのか、落としたのか音が聞こえ不安になるけれど、うん、きっと大丈夫だ。見に行ったらもっと不安になるに違いないと、私はAちゃんと目を合わせながらお給仕されるのを待った。

「お待たせ〜」

お盆に乗せてくるコーヒーとお茶、そしてどうぶつビスケット。セレクトが悪くない。というか、どうぶつビスケット、私物か?

「私、どうぶつビスケット好きなんですよ〜。お菓子持ち込んじゃいけないんですけど、内緒ね。内緒っ子同士でお茶会もいいでしょ。」

総じて上手。交渉しないくせに懐に飛び込んでくるあたり、天然でも策士でも、どっちでもあり。自分を下にできる人間は、周りを動かす能力に長ける。看護学校時代によく周りをみて、自分がどうすると、チームをまとめられるかを実習でよく見てきなさい。指示を出す人間の場合、指示を受けれる人間か、相手から報告を受けられる人間かを見てきなさいと言っていた。最初は指示出すのが偉いんじゃないのか?と思っていたけれど、働いてみてわかる。

指示を出させるのもスキルだし、後進の教育。自分が不在の時、手を離せない処置をしている時、自分がいなければ回らない職場は未熟なチームだ。先輩の背をみて、いつでもフォローができる。そして、後輩をみてフォローをしようと思う、自分も改めようとする職場の衰退はない。スキルは身につければいい。信頼は培い、共に養うものだという意味がよくわかる。

人に弱みを見せることほど簡単な信頼関係を築いていくスキルはない。自然とフォローしようと思うし、しっかりしなきゃと思ってもらえる。自分のができると勘違いしてもらうこともできる。彼女はそれをよく知っている。まあ、じゃなければ、保護者が走り込んできたり、子供たちの緊急時に医者の判断もなければ、物品も医療施設に比べて微々たるもの。自分の判断で、できること、やっちゃいけないこと、出来ることの少なさを知りながら保健室待機なんてやろうと思えるものではない。

救える目的であれば医療機関のが気持ちが楽なのだ。可能な限り努力ができる。できることが少なければ、他者に頭を下げることのが多い。それをわからないでやってる人ももちろんいるけど、彼女は少なくともわかってやっている様子。まして、私もついてるわけで、どちらかコケてもフォローを投げれるだろう。
きっと、彼女はAちゃんを私が連れてきた時点で、私が付く話を申し送りで聞いていた以上どちらかだと踏んでいる。

ただの甘やかし担当か何か突破口を見つけるタイプか。甘やかし担当ならば、生徒たちに混じって一緒に移動した方が楽だ。手間はあっても自分で判断することなく流されていればいい。

しかし、二人きりになり、ましてや保健室に施設待機がいる中連れてきた、手を繋いで。そう考えれば、何かしらアクションを私が起こし、信頼を得かけていると踏める。それならば、私とAちゃんの信頼関係さえ築けて場所提供さえすれば成り立つ話だと察せる。

つまりは、何もしなくても可能な状況だとは分かっているはずだ。その上で内緒ごとを足してきたということは、自分もあなたたちのサイドにいる人間だ、使ってくれと油断できるようなスタンスを見せている。実に判断が早い。多少遊び心出してはくるだろうけど、余計なことはしないだろう。あの校長、案外人脈あるなと思った。

作戦は練らずとも、行動で出来上がっていくのが現場というものだと思う。

つづく。