人をかんがえる時につかう:マズローの欲求五段階説 自己実現理論②
前回のおさらい。
アメリカの心理学者、アブラハム・マズロー(1908~1970)考案した
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きもの」という
「マズローの欲求五段階説」「自己実現理論」とも言われるものがあります。
トリアージとまで行かずとも、病状などを考慮して、常に優先順位を看護師はアセスメントして立てています。自分の業務の優先順位を決めていかないと、回らないですからね。
優先度を分けたのは「危険度」です。
そこで、どの欲求があってつまづいているのか?ということを検討するのにあたって、この「マズローの欲求五段階説」を使うわけです。
では、早速詳細に移りましょう。
マズローの法則によれば、人間の欲求にはピラミッド状の序列に5段階があります。そして、下層の欲求が満たされるごとに、1つ上の欲求をもち、求めていくというものです。
ベースの五層はそれぞれ二つに分けられるといわれています。
Ⅰ物質的欲求 Ⅱ精神的欲求
また補足の側面でもまた別に二つに分けられるといわれています。
欠乏欲求 成長欲求
「危険度」は低層な欲求ほど高い。
高層になるほど低くなります。
生きていくベースを確保するのが、おおよその医療の役割です。
人間としてどう生きていくかは、患者さんご本人のヒントになってくれるよう補佐する程度しかできないであろうというのが驕りすぎない立場として認識しています。
QOL(Quality Of Life)は、ご本人の欲求がどこにあるかでも変わります。かなり高層の人もいれば、危険度が高すぎて噛み合わないこともあります。折り合いをつける難しさにぶち当たった時に、シンプルに見直す時でもこの表は助かります。
Ⅰ物質的欲求
①最下層「生理的欲求」(Physiological needs)
人間が生きていく上での基本的・本能的欲求。
生命を維持するために必要な食事や睡眠、排泄。
- 食べれなければ衰弱するし、動けなくなる。
- 眠れなければホルモンがかず身体を回復する能力が落ちる。
- 排泄できなければ、極端に言えば毒が溜まるしパンクしてしまう。
何を差し置いても、ここが動いていないと生物として活動が困難ですね。
②第二層「安全欲求」(Safety needs)
安全で危険のない生活を求める欲求。
- 安定した住居環境がなければ、休むことは難しい。
- 安定した経済状態がなければ、食事の確保もできないし不安に襲われる。
何ものにも脅かされずに過ごしたいという欲求。
往々にして、最下層「生理的欲求」と連動していることが多いですね。この二つは、もはやないとできないものなので物質的欲求と分けられています。
Ⅱ精神的欲求
①第三層「所属と愛の欲求」(Social needs / Love and belonging)
または「親和欲求」とも呼ばれます。
物質的欲求は、ひとりの生体としてどうかという問いでした。ここからは、他者が登場します。
- 集団に入りたい
- 仲間が欲しい
- コミュニティや群れという進化していく環境ついて関わりたい
同一性(アイデンティティ)の構築を求めて他者とのつながりを求めます。
(※同一性については、エリクソンの発達段階の記事を後日アップします)
これが満たされないと孤独や不安を感じやすい。
Ex)
入院している患者さん。急性期を乗り越えて、症状が落ち着いてきました。いままで話す余裕がなかったので、発言は痛い、苦しいなど必要な訴えだけでした。最近は、看護師をみかけると
「今日は天気がいいね」
「働いて長いの?」
「今日は○○さんはお休みかな?」
「お見舞い今日は来ないかな?」
「お隣の人は具合が悪いのかな?」
など、時間の過ごし方やスタッフとの会話を楽しむようになりました。
看護師や他の入院患者とコミュニケーションを取るようになる。さらに、家族や友人などから心配されているか気になったりすることが合図ですね。
②第四層「承認・尊厳欲求」(Esteem)
誰かとコミュニケーションを取るようになると、今度は周りから褒められたい、認められたい。他人から見て自分が価値ある存在だと認めて欲しくなります。
マズローは、この階層の欲求には2つのレベルがあるといいます。
低レベルの欲求:
他者からの尊敬や評価を欲するもの。他者からの尊敬、名声、注目などを得ること。
Ex)
- 転んでも転んでもリハビリも頑張ってるのすごいね。
- 毎日休まず病棟内を歩くのを続けている人ですよね、元気。
- なかなか頑固だけれど、夫はそこがカッコいいのよ。
- 普通はなかなかできないことですよ、素晴らしい。
高レベルの欲求:
自分自身の尊重や評価を重視するもの。技術や能力の習得、自立性などを得ることで満たされ、他人からの評価より自分自身の評価を重視する傾向。
Ex)
- 弱音を吐いている姿見せず、辛い治療を続けて退院予定が立つようになった。
- 箸も掴めなかったが、文字まで書けるようになった。
高レベルの欲求が満たされないと、劣等感や無力感といったマイナスの思考が生まれやすい。
ここを知るということは、目標が定まりやすいということでもあります。
いままでお話した4層は「足りない」という前提があり、補っていきたい「欠乏欲求」でした。
③第五層「自己実現欲求」(Self-actualization)
この五層は、もっとできるようになる「あるべき自分になりたい」。
自分の能力やスキル、可能性を引き出したい、限界に挑戦したい「成長欲求」だとされています。
Ex)
- 社会貢献:仕事やボランティアなど
- 誰表現できないアーティスティック面を開拓:音楽、芸術、他
自己の中から湧き出してくる、対価を求めない無償性が伴うものです。
全ての行動の動機がこの「自己実現欲求」に帰結されるとも言われています。
補足として、
晩年、マズローは5段階の欲求階層の上に「自己超越」の段階があると発表しました。
「自己超越」は、”目的の遂行・達成のみをピュアに求める” という領域を指し、見返りを求めず、自我を忘れてただ目的のみに没頭する様のことだそうです。
もはやこれは高次元のお話すぎて、なかなか病院ではお手伝いするケースがあるとすると、緩和ケアとかハイレベルな位置になってくるのかなと思います。
その後、項目が増えた7段階説や、図形が台形になっていたり、頂点のさらに上に超越や至高体験が存在したりと異なった解釈や解説も存在するのですが…
目安です!
使う人が使いやすく、役立てば否定する必要もないし、どんな形でもありかと思います。
いろんなケースで私は多用してきたので、医療以外でもいろんな分野で活用できるかどうかは、その人のその分野の知識が深ければ深いほど範囲が増えるかと思います。
このブログでもたまにここの記事にとんできます。ご活用いただければと思います。