story

包帯巻きは、いつだってできるを知る 移動教室篇

「俺ら、なんかケガして得したな。」

 

 

「うん、あいつら入りたくてしょうがないだろうね。」

ニヤニヤしてるけが人ふたりが喜んでいるのはどうかと思うけど、落ち込んでしょうがないよりははるかにいいか。

 

—–前回—-

 

 

「お待たせ。女子に処置席交代」

背もたれのあるイスに、ショートカット女子が座る。ニーハイの上から、伸び縮みのしない三角巾で足首を90度固定にしていたのを解く。

「はい、靴下脱いで。肌に直接に巻くよ。」
「え〜なんで?」

彼女は不思議そうだった。

「靴下汚いでしょ。これからお風呂入るから、また自分で巻くことになるのよ。どうしたい?」
「う…きれいな方がいい。でも、それならお風呂後に来た方がよかった?」
「うん、ほんとはね。でも、伝えたいことがあったから先に呼んだ。」

そう、捻挫をしたことがある人には思い当たる節があると思う。捻挫をした後のお風呂は痛い。

なぜなら、お風呂はあったかいので循環がよくなる。よって、腫れやすくなる。登山最中にも話したが、筋繊維の一部が切れることが捻挫という。つまり、切れているわけだから炎症物質も溜まって治そうと工事中。そんな時に、押し流そうとする血流なんか来ようもんなら、ドクドク溜まっていく一方。
だから、疲れた身体を癒すために本来はお風呂に浸かってほしいが、捻挫をしたのであれば話は別。身体をキレイにする清潔を優先し、長湯は避けてほしい。お風呂の目的を変えて欲しい。

また、今晩に寝ると包帯はズレるだろう。翌朝、もちろんチェックはするつもりだけど、包帯がズレながら本人が朝から保健室に寄るのは、移動にも負担が増える。それならば今晩のうちに会得させたい。お風呂の後に自分で巻いてみて、疑問に思えばもう一度私に聞きに来ればいい。自分で復習する機会を作りたかったからお風呂前に呼んだのだ。

そして、三角巾のように歩かせるためではなく、ある程度の動く幅を持たせ、うっ血を避ける程度の強さで伸縮包帯の巻き方を教えたい。弱過ぎても移動は辛い。強過ぎたら鬱血する。伸び縮みをする道具というのは、巻く人間のスキルにその後の快適さが左右されるのだ。

そんなことを話しながら、

「いい?伸縮包帯は引っ張るんじゃなくて、少し整えながら転がすの。だから、包帯は丸くまとめる必要があるの。巻く時は解けた状態ではうまく巻けないと思って。準備が何事も大事。」
「うん、わかった。」
「もうひとつはキレイな固定を維持するのは、摩擦をいくつ作れるかが大事。クロスさせて方向を変えたり、ズレを作ることで摩擦ができて動かなくなるの。それを覚えたら、どうしたらいい?」
「同じところを巻き続けない。」
「そう、同じところは回るけどね。足首を固定したいなら、足首と足の裏を交互にクロスさせればいい。」

一巻きして、質問をする。

「こんな感じに一巻きだと?」

その上を指で触ると包帯は指に引っ張られ、動く。

「動いた!摩擦できない!」

同じように、3〜4回足首と足裏をクロスしながら巻いてみる。

「そう、こんな風にズルととれるね。じゃあ、3〜4回巻いてみるとどうかな?」

「あ、動かないよ。すごいね。でもさ、足首パタパタ動くよ。全然さっきと違う。」
「よく気づいたね。次はそこを突っ込もうと思ってたんだよ。なんで動いたと思う?」
「げっ…ん〜伸びる包帯だから?」
「違うよ。最初に足首の角度を決めないで巻いたから。」
「え?」

包帯を巻くというのは、巻く前にほぼ目的達成できるかが決まってしまうのだ。動く位置で固定しても、動いてしまう。筋肉は寄せて治す。だから、寄せるための位置を決めないと、固定にもならない。また、寄せ過ぎてしまったら短くなってしまうこともある。だから、ケガした時の位置を決めるのはとても大事なのだ。

固定する角度が分かれば、次はその位置の保ち方だ。

たとえば、脚に力を入れるのが痛ければ、踵を立てて壁に足先を持ち上げてあげればいい。足先にブロックのような高さを挟めるならそれでもいい。その場にあるものを使って手伝ってもらえば一人でもできる。必ずこれがなきゃできないってことはない。この角度にしたい、だから何を使ったら力を入れずに手伝ってもらえるかって考えてみたら、その場の答えはいつだって出せる。

「では、質問です。この部屋ではどこを使って固定ができるかな?」
「ん~今載せてる足台?足を下ろして足を立てかける!」
「それも正解。他でもできるね。どこでも探せばできるでしょ。お風呂入ってからも、朝起きた時も自分でもうできるね?」
「やってみる!」

やってあげるのは容易い。しかし、考えるきっかけをつくり、繰り返す場をつくる。そうすれば、誰かが困った時に助けて上げれる人になる。それが広がると、私はとっても楽をできるし、目の前で困っている人がいる時に後悔をしなくて済む。

医療の仕事は、断っても断っても終わりがない。それは、何でもしてもらおうとした人が増えたから、自分ではどうしようもないことの見分けがつかないゆえに、そもそも重症だと自分が気付かない人がいることでもある。多少のことを教えあい、自分ではわからないと気づいてもらえることも大事な治療への近道でもあると私は思うのだ。
だから、整形外科の捻挫などのメカニズムや包帯の固定というのは、実にいい教材だと思っている。処置に興味を持ってくれた群れ男子たちが覚えて、広がってくれると実にうれしい。それが私が看護をやっていて面白いなと思えるひとつの価値だからと、少し浸っていると突然廊下のほうで叫び声にも似たヒステリックな声が聞こえた。

「なんでそんなことができないのーーーー!!!!」

呆れた顔をして顔を見合わせる二人。

「またかよ。」
「あきれる。」

子どもたちは何かを知っている様子。なにかが起きている。

 

つづく。